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第52回 参照性(その3):波及

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之

参照におけるミクロ自治論とマクロ自治論

 個々の自治体Xが政策立案や政策執行を行う際に、他の自治体Yの状況を調査・分析する。その結果を情報源として、他の自治体Yの政策から、自治体Xは学習する。この学習にはいろいろな方向があり得る。
 ①Yの政策αをXとしてプラス(成功)と評価した上で、Xも政策αを導入する。
 ②Yの政策αをXとしてプラス(成功)と評価したものの、Xには地域事情が異なるとして、政策αをXは導入しない。
 ③Yの政策αをXとしてプラス(成功)と評価したものの、Xには地域事情が異なるとして、政策αをXはそのままでは導入しないが、政策αを地域事情に合わせて改良した政策α’をXは導入する。
 ④Yの政策αをXとしてマイナス(失敗)と評価した上で、Xは政策αを導入しない。
 ⑤Yの政策αをXとしてマイナス(失敗)と評価した上で、Xは政策αを改良した政策α’を導入する。
 個別自治体のこのようなミクロの政策学習過程があれば、それが集合することによって、多数自治体の中でマクロ的な政策学習過程が生じることがある。自治体X、Yなどではなく、政策αに焦点を当てれば、政策αは、どこかの自治体で誕生し、それが別の自治体に伝播(でんぱ)したり、あるいは伝播しなかったり、また、別の自治体に伝播するときに、一定の改変がなされて政策α’になったり、さらにはもはや同種の政策αとはいえないような政策βに変異して、伝播することもあろう。
 政策と政策が、同一と見なせるか、もはや同一と見なせないかで、政策α’か政策βかに区分されるともいえるが、こうした区分はある意味で観察者の任意である。そもそも、完全に同一の政策αが、いわば、自治体名・対象規模・予算額・年度などだけを置換しただけで他の自治体に伝播することは、まずない。その意味で、ほとんどすべての伝播は、何らかの大小の改変を伴っている。ともあれ、政策に着目すれば、政策αは多数の自治体という個体群において、マクロ的に波及することになる。


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