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第60回 組織性(その6):目的なき組織

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之

はじめに

 自治体は組織であるが、前回(第59回)において触れたように、一般の組織の資源循環とは異なる側面がある。第1に、強制権を持つ統治団体でもあるから、強制的に資源調達を課すことができる。その典型は租税である。一般の組織であれば、資金の貢献をしてもらうためには、組織としては、何らかの誘因(財・サービスなど)を提供しなければならない。しかし、自治体を含む統治団体の場合には、誘因を提供しないで、資金を強制徴収することも可能である。
 第2に、自治体には必ずしも明確な目的が存在しない。「住民の福祉の増進」、「公共の利益(公益)」、「生命・身体・財産の保護」などという曖昧な目的はあるが、ほとんど無内容なぐらい漠然としたものである。特に、現代日本の自治体は一般目的・多目的(general purpose)である。総合性という特徴も、この一般目的を指すことがある(1)。これが、特定目的・単目的(specific purpose)の自治体であれば、まだ政策目的は限定される。例えば、公立学校教育(学校区)、灌漑(かんがい)(水利組合・土地改良区)などであれば、当該目的に限定される。しかし、一般目的・多目的であれば、具体的に、どの政策目的に絞るのかさえ不明確である。さらに、学校教育や灌漑など政策目的が特定されていたとしても、その解釈や政策衡量は多義的であるし、当該目的に限定したとしても事務事業は多数ある。
 つまり、自治体は、「貢献意欲」がなくても、「共通目的」がなくても、組織として存続しうる。バーナードが指摘した3要素は、企業などの民間任意団体を主として想定しているのかもしれない。自治体は、住民に貢献意欲がなくても、資源保有者(住民・企業など)から強制徴収すればよい。そのためには、権限や実力(人員)や情報という資源を組織が持つことで充分である。もちろん、伝来説・被造物説に立てば、国又は国家又は国民が自治体に対して権限を提供(貢献)するのは、自治体が国又は国家又は国民に対して何らかの誘因(有用性・存在意義)を提供しているからともいえる。しかし、住民からの貢献意欲は不要である。
 自治体には明確な共通目的は不要である。存在すること、存続すること、住民を支配すること、それ自体が自己目的であるかもしれない。伝来説・被造物説に立てば、国に対して誘因を提供すること自体が、自治体という組織の目的かもしれない。地域(地域住民又は地域為政者)に対して、国が「知らせと事よさせ」(知事させ=支配しろと託し)たのが、自治体というわけである(2)。目的が存在しないのは、国又は国家の方が、より深刻である。それこそ、存立それ自体、統治する(「知る」)ことそれ自体が、国又は国家の目的であるかもしれない。いわば、目的なき統治である。
 実際、組織に共通目的は必要ないという組織観がある。その一つが、カール=ワイクの組織化理論である。それを手がかりに、自治体という組織の共通目的を考えてみよう(3)。ワイクは独特であり、組織(organization)ではなく、組織化(organizing)であると指摘する。ただ、以下では記述の便宜から、あたかも組織があるかのごとくに説明しているが、それは、世間でいわゆる組織と見られるような状態を指しているにすぎない。ワイクにとって重要なのは、組織化がされるかどうかである。


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