明治大学政治経済学部講師/株式会社廣瀬行政研究所代表取締役 廣瀬和彦
政務活動に伴い支出される交通費であるタクシー代について、多くの判例が示されてきたが、裁判における立証により判決が大きく変わることが多い。当然、タクシーに係る領収書は、収支報告書とともに証拠書類としての提出が義務付けられているが、その支出目的や内容についての立証は、各議会における手引等の規定の仕方により異なる。
そのような状況の中で、タクシーの利用に係る判例として、広島高岡山支判平成29年3月30日がある。この判例は、議員らが、新幹線を利用して移動後、市役所までタクシーを使用し、新たな雨水流出抑制施設整備促進事業についての説明を受けるなどした後、同市内のホテルに宿泊、翌日、タクシーで同市内に存する同市広域防災センターを見学して職員から説明を受けるなどし、再び新幹線に乗るために駅までタクシーを使用した事案である。
この事案では、視察の日程上、宿泊の必要性がなかったとして、宿泊費は使途基準に適合しないとして認められなかったが、タクシー代は全額認容された。
判例は、政務調査費の交付を受けた会派の経理責任者に対し、収支報告書のほか領収書等の写しを証拠書類として提出を求めているが、タクシーを利用した目的やその必要性等についての具体的説明や、これを裏付ける資料の提出までは求められていないとし、タクシー代について提出された領収書や収支報告に当たりなされた議員の説明を客観的に観察して、それ自体、議員としての議会活動を離れた活動のために利用されたものであるとか、議員の議会活動の基礎となる調査研究との間に合理的関連性を欠くとの疑いを生じさせるものでないときには、こうした疑いを生じさせるに足りる事情についての主張、立証責任を原告が負うというべきであるとしている。
【広島高岡山支判平成29年3月30日】
本件条例は、政務調査費の交付を受けた会派の経理責任者に対し、収支報告書のほか領収書等の写しを証拠書類として提出を求めているが、タクシーを利用した目的やその必要性等についての具体的説明や、これを裏付ける資料の提出までは求められていないと解される。こうした本件条例の仕組みに照らすと、タクシー代について提出された領収書や上記の収支報告に当たりなされた議員の説明を客観的に観察して、それ自体、議員としての議会活動を離れた活動のために利用されたものであるとか、議員の議会活動の基礎となる調査研究との間に合理的関連性を欠くとの疑いを生じさせるものでないときには、支出の違法を主張する1審原告において、こうした疑いを生じさせるに足りる事情についての主張、立証責任を負うというべきである。そして、1審原告からこうした事情についての主張、立証がないことにより、タクシー代の使途基準への適合性が肯定されることとなったとしても、それは、収支の報告等に関する本件条例の上記仕組みや、使途基準への適合性に関する主張、立証責任の分配に由来するものといわざるを得ないから、1審原告の上記主張を採用することはできない。
よって、上記の支出が使途基準に適合しないということはできない。